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Architects

長崎辰哉

株式会社アトリエハレトケ

〒145-0062東京都大田区北千束3-13-14
03-6316-7227
https://haretoke.co.jp/

デザインアーキテクト
一級建築士・代表取締役
1971 神奈川県生まれ
1996 東京大学 工学部建築学科 卒業
1998 同大学院 工学系研究科 建築学専攻博士課程前期 修了
1998 岡部憲明アーキテクチャーネットワーク 勤務
2002 ミリグラムスタジオ 勤務
2008 長崎辰哉建築設計事務所 設立
2009 アトリエハレトケ 設立 代表取締役
2011-19 東京電機大学 非常勤講師
2011- 東京理科大学 非常勤講師

Works

の作品

Interview

インタビュー

Q:断熱・気密性能に対する考え方を教えてください。

断熱性能と気密性能については、セットで考えなくてはいけません。
どの断熱材を選んでも、断熱の性能自体は十分な性能を確保することができます。
熱伝導率の低いものであれば薄くできますし、高いものなら厚みを出すことで断熱性は正しく確保できるのです。
大切なのは、どのような状態で施工されているかを適切に監理すること。
その監理が一番ラクなのが、吹付け系の断熱材だと私は思います。
解体時の分別は大変ですが、気密性能の確保も容易なので、住まいを永く継承する前提であれば、現状はこの方法がよいのではないでしょうか。
〈建築物(特に住宅)における気密性能について〉気密性能を上げるのは、住まいを外の環境に対して開いたり閉じたり自由にできるようにするためだと私は考えています。

C値0・5以下に整えられた住まいは、窓を開いて風を通した後、窓を閉じてエアコンを掛ければ、少ない空調負荷で速やかに元の快適な室内環境を取り戻すことができます。
季節を問わず、窓を開け放つことをためらわなくて良くなるのです。
「高気密・高断熱」というと、外の世界と縁を切って住まい単体で快適さを人工的にコントロールする、というイメージをお持ちの方もいらっしゃるか思います。
でも「そこに建つ住まい」という観点から考えると、住まいを取り巻く外の環境を暮らしに取り入れられることの方が、
はるかに知的で楽しく、豊かな生き方なのではないでしょうか?
気密性能の高い住まいを手に入れたら、ぜひ窓を自由自在に開け閉めしてください。
「その場所ならでは」「自分たちならでは」の快適な暮らしがきっと実現するはずです。
断熱・気密性能を考える上では、サッシの素材や開閉方法の選定も重要だと考えています。

RC造の場合は、10年以上前から基本的に外断熱で設計するようにしています。RC造の場合は、施主さまには重要度が理解されにくい要素ですが、
ヒートブリッジ(熱橋)対策が非常に重要です。
また、パッシブデザインに配慮し、軒を深くすることで夏場の強い日射をカットし、冬場は積極的に日射を取得できるような設計も考えてきました。
断熱性を高めることが住む人にとっていかに重要なのか、そのためにどのような設計が必要になるのかを理解していただくためには、
提案の中で施主さまとコミュニケーションを取りながら理解していただくのが良いと考えています。
ほかにも、敷地内だけでなく周囲の環境を読み解きながらバランスよく設計することは、いまも昔も変わらず心がけています。
例えば、近隣からの目隠しになるように植栽計画を行うなど、プライバシーを確保する方法や、
総合的に住みよいかたちがどのようなものか、施主さまとのコミュニケーションの中で信頼を得ながらプランづくりを行っています。


デザインと性能は一体でなくてはならない

Q:これからの断熱リノベーションについてどのようにお考えでしょうか?

設計事務所と聞くと、どうしてもデザインオリエンテッドであるという目で見られがちで、リノベーションして再生するという依頼よりも、新築の依頼が多くなりがちです。
ただ、私どもは戸建ての断熱リノベーションのご相談も多くいただいています。
今後はマンションの断熱リノベーションも積極的に引き受けていきたいと考えています。
というのも、これからは新築をどんどん建てるという時代ではないかもしれないと思うんです。
現在は建築資材の価格がとても高騰しています。
そのため、すでにある、いま使えるフレームを活用して環境性能を上げながら、住み手の暮らしに合わせた総合的なプランニングを行わなければならないケースもあります。
このような流れで設計をお願いしたいという施主さまの要望は恐らく潜在的にあると感じています。
昨今のSDGsの流れを汲み取りながら、環境に配慮して既存の建物を有効活用していくということも視野に入れながら、家づくりに向き合わなければならないと感じています。

また、私が思うのは、デザインと性能をどう両立させるのかではなく、そもそもデザインと性能は両立しているべきもの。
性能こそがデザインであり、またデザインこそ性能である、と考えています。
一見デザイン性が高いものは性能を伴っていないように思われるかもしれませんが、本来はそうではありません。
私自身はバランスを重視するのですが、適切な性能を確保してこそ、建築家は自由なデザインを許されると考えています。
正直にお話しすると、気密・断熱性能を原理主義的に追求してしまうと、デザインの自由度はある程度制約されてしまいます。
だからこそデザインと性能は両立させなくてはいけないのです。

Q:耐震性能や劣化対策は、どのように考えて設計していますか?

耐震性能については、できる限り耐震等級3を目指すことにしており、最低でも耐震等級2を確保しています。
専門家と協働してきちんと構造計算してつくりますのでデザインと構造性能もしっかりと両立させています。
また劣化対策にも力を入れています。
特に防蟻処理についてですが、当事務所ではホウ酸系の防腐防蟻処理剤を施工しています。
基本的には構造材の組み立て前に防蟻処理します。
基礎を組んでから防蟻処理をすると、土台裏などに防蟻されてない部分が出てくるので、とにかく裏表すべてを行うことにしています。


長期的なビジョンを持ち建築家と一緒に叶える家づくり

Q:これから家を購入しようとしている方へのアドバイスをお願いします。

これからの家づくりに大事なことは、家という自分の住まいに〝公共性〞を考えていくことだと思います。
これは事務所を立ち上げた時から申し上げていることですが、自分の土地に自分の家を建てるのだから「何をしてもよい」という考え方ではなく、
自分の家がこの場所にできることで社会的にどのようなインパクトがあるのかを、客観的・意識的に考えていけることが必要です。
自分が望むライフスタイルさえ実現できれば、「いくらランニングコストがかかっても問題ない」と考える方は、恐らく他を当たられた方が良いでしょう。

私たち建築家が、施主さまと一緒に家づくりを行っていけるのは、価値観において足並みがそろっているからであり、良いものはできないと思っています。
個人住宅であるとしても、それは街の景観であり、ひいては後世に残るもの。
であれば、どのような形のものを残していくべきかを意識することも必要だと思うのです。
日本では特に建築物を長く使うという考え方が希薄で、30年程度で壊されては新しいものを建てていくことを繰り返しています。
では、だからと言って長期的なビジョンのない住宅をつくってもいいかと言えばそうではありません。
その建築を壊すかどうかの判断を、次の世代ができるような環境性能を持った住まいを考えるべきだと私は思います。

もう一点アドバイスをするとしたら、家を「購入する」という感覚の方は建築家住宅との相性があまり良くないかもしれません。
家は〝つくるもの〞で、共に意見を交えながらどのような家にしたいのかを二人三脚で考えていくもの。
だからこそ、施主さまのために建築家も一生懸命に働くことができます。
しかし購入するとなった場合、建築家の仕事はほぼありません。
すでにあるもので性能も満足できるのであれば、望むものはもう手に入ったも同然です。
家づくりの醍醐味は、建築家と施主さまが想いを共有して叶えること。
そこに意味があると考えています。

もちろん私たち建築家も、商品住宅が悪くない間取りで提供されてるからと言って役割がなくなるわけではありません。専門家が設計すること
で住宅にどんな価値を与えられるのか、その意味を見出してもらえるものをつくっていかなければならないのです。
私たちが大事にしたいのは、たった一つの正解を目指すことではなく、多様な価値観を引き受けつつ自由に提案すること。
できあがった家を、この先の未来、どのように経年深化させたいのか、そこまでを見通すことができるのはきっと建築家だけだと信じています。