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Architects

丸谷博男

株式会社エーアンドエー・セントラル

〒155-0033 東京都世田谷区代田3-48-5
03-5431-6030 
https://www.a-and-a.net/index.html

エーアンドエー・セントラル 代表
1948年生まれ、山梨県出身。
東京芸術大学美術学部建築科大学院修士課程卒業後、1975年~1983年、奥村設計所に勤務。一級建築士事務所「株式会社エーアンドエー・セントラル」に改称し、現在に至る。
1983年の独立まで奥村昭雄氏の研究室で、家具と建築の設計を学び、室内環境・太陽エネルギー利用・環境共生的なアプローチに力点を置き、OMソーラーシステムの開発期にも関わる。
千葉大学工学部建築科及び建築工学科、東京芸術大学美術学部建築科、多摩美術大学造形表現学部デザイン学科などで非常勤講師も務め、一般社団法人ARTISAN日本代表理事にも就任するなど、その活動は多岐にわたる。
現在は設計活動とともに、住宅の本来的なあり方をエコハウス研究会を通じて普及している。

Works

の作品

Interview

インタビュー

Q:建築家として大切にしている設計のポイントはどこでしょうか?

現代は〝人生100年時代〞と言われますので、住宅を必ずしも一度に完成させる必要もないかと思っています。
その理由は、住む人の金銭的な面も含まれますが、少しずつ完成に向けて歩んでいくプロセスにこそ価値があると思っています。
そこで私はよく、「未完の家をつくりませんか?」と声をかけています。

例えば子育て期の住宅であれば、子供がドタバタしたり大きな声を出せるだけの広さも必要ですし、
家族の誰がどこで何をしているかを背中で感じながら、炊事・洗濯ができた方が安心できますよね。
そして子供が大きくなったら、もうひとつ床を増やして部屋を追加できた方がよいこともあります。
建具だって初めは無くても生活できるでしょう。
このように5年、10年と時間をかけて「未完成」を段階的に「完成」へとつくり上げていく。
そうしていったん完成した後にも、今度は世帯の年齢や住宅に対する要求が変わってきて、生活時間もバリエーションが出てきます。
そこでまた、「間取りに少し手を入れようか」ということになっていきます。

近年では、竣工してから20年ほど経つと子供が巣立ち、その部屋が物置になることも多いです。
でもそれではもったいない。もう少し居心地のいい部屋に変えるほか、夫婦で個室を持つこともいいでしょう。
65歳を過ぎると寝室を分ける方も多い時代です。年代にあわせて、また設備も替え時になってくるわけです。
だからこそ25年、50年先をどう過ごしているかを思い描くことが、家づくり、家育てにとっては重要です。
いま何を設計するのか、何をつくっていくのか、25年先に予想されることを見据え、余分と余裕を残していくこと。
そして、将来リフォームできる家を目指すという考え方が、いまこの〝人生100年時代〞には必要な考え方なのではないでしょうか。


あるものを活かすのがこれからの時代の建築

Q:「古民家再生マイスター」の講座はどのようなきっかけで始まったのでしょうか?

この講座は、古民家再生のための実践的な技術を習得する工務店や設計事務所向けの内容で、
不動産業の友人に誘われて東京・品川駅周辺にある長屋改修を見学に行ったことがきっかけで開催することになりました。

見学に行くと、その建物は、古民家をリノベーションしているのは事実なんですが、もともとの古民家のいいところを活かせておらず、
アルミサッシに変えてしまったりとその良さを理解できていないと感じたんです。
不動産に携わっている人が、その価値をわからず建物をリノベーションしていることに危機を感じて......。
しかしそれは建築家にとっても同じことで、我々も昭和初期や戦前の建物をろくに見ないで壊してしまうことがあります。
重要文化財でなくとも、その地域の歴史の一つになっているものであり、「直そう」という愛情さえあればどのようなものでも直せるんです。
考えなくてはならない換気の問題などもありますが、隙間だらけで古いものだからだめだという感覚ではなく、
その建築がなぜ大事なのか、古民家のイズムは何だったのか、欠点は何だったのか、という背景や歴史を理解してその町の顔であることに敬意を払い愛情を持つ。そういったことをすべて踏まえなければ、古い建物のリノベーションは成り立たない。そこで、古民家再生マイスター講座を始めることにしたのです。

それまでは、お金をかけずに壊して新築を建てた方が高気密・高断熱の家がつくれると勧めていたのですが、実は問題になっている廃棄物の約2割が建築の解体による廃棄物。
このようなことを続けていては、社会は持続可能ではないし、久しぶりに故郷に帰ってみた時に昔の面影がまったくない町になっていたということもあり得るでしょう。
メンテナンスをきちんとしていれば、数百年、千年と残り続けることができる建物はたくさん存在します。
いまあるものを壊さずに活かす、これからの時代はそういった視点が大切になってくると考えています。


自然素材の材料を使うことで健康を取り戻す

Q:マンションのリノベーションで注意することはありますか?

マンションのリノベーションで一番の問題となるのは気密性よりも断熱性です。とは言え、気密性が高いことでの問題点もあります。

例えば、ユニットバスで窓がない場合、放っておくとカビが生えてしまいますよね。
ほかにも、ベランダの日当たりはいいのに周辺の壁が結露してしまい、カーテンの裏側にカビが生えてしまうこともあります。
気密性の高い家でこのような結露をしてカビが生えているということは、実はカビを吸って生活をしているのと同じこと。
だからマンション住まいの人は風邪をひきやすく、呼吸器系の疾患を持っている人も多いんです。
冬のはじめに一度風邪をひくと、ひと冬ずっと喉を痛めている人とか......それが気密性が高いマンションの問題点です。

ただ、マンションは内装を木材や土壁などの珪藻土、あるいは家具を無垢材でつくるなどすることで、空気質が大きく変わってきます。
空気質は建物内の空気中のガス成分量を指しますが、この空気質の違いで住む人の健康状況が大きく影響されるのです。
部屋の見え方だけでなく安らぎまで変わるのですから、どんな素材を使うべきかの知識は持ち合わせておきたいところですね。

また、マンションは住みたいと思う人の潜在的需要が大きい物件です。
なので、まずはそこに住む人たちの健康を取り戻すべく、できるだけ木や土などの自然素材を使った建物につくり替えることが、
これからのマンションリノベーションで求められている肝だと思います。


自分が目指すべき住まいのあり方を探す

Q:家づくりや家を購入しようとしている方、そして家を長持ちさせるためのアドバイスはありますか?

嫌なことを言うようですが、まずは勉強しましょう。
これまでマンションにしか住んだことがない人は、恐らく戸建てのことはわからないでしょう。
古民家を訪れてみると寒くて驚いた、という声もよく聞きますが、このように経験したことを、それだけで終わらせずに、さらにいろいろな生活体験をしてみたらいいと私は思います。
車やパソコンを購入する際、スペックを一生懸命調べますよね。住宅も同じことです。
しかし、建築と言うと情報量が膨大すぎるために、諦めてしまうことが往々にしてあります。
でも、勉強せずに何千万円というお金を出すよりは、勉強する時間をつくってでも調べて、体感した方がいい。
できれば一度、賃貸でマンションや戸建てに入居してみるなど、自分が目指すべき住まいのあり方を探すことをおすすめします。

また場所についてですが、いまは都心から40㎞圏の不動産が注目されて値上がりもしていますが、そういった一過性の状況に惑わされず、
どこに居を構えたいのか、自分のライフスタイルをじっくりと考えてみたらいいかと思います。
そのためには、いま住んでいる場所や家だけに捕らわれる必要もありません。
今を基準において考えなくても、暮らし方は多種多様にあると思うんです。
郊外の建物を安く借りてみたり、その家を修繕しながら住んでみる......そういう経験があったっていいんじゃないでしょうか。

ひと昔前には持ち家よりも賃貸の方が一般的でした。
家族が増えたら大きい家に引っ越して、また夫婦だけになれば狭いところを借りて、気に入らなければ自然に近いところへ引っ越すなど、自由であることも大切な考え方。
「所有しない」ということも考えれば、自分と家との関係もまた違った角度で見えてくると思います。