松田毅紀/南澤圭祐
HAN環境・建築設計事務所
〒154-0022 世田谷区梅丘 1-59-28 梅ラウンジ 1F
03-5799-4285
https://www.han-arc.com
松田毅紀
一級建築士 / BIS認定資格
1965年 東京都生まれ
1986年 麻布大学獣医学部医学科入学
1992年 東京職業訓練短期大学校卒業
1996年 HAN環境・建築設計事務所
2005年 同事務所 設計統括就任
2011年 同事務所 代表就任
南澤圭祐
一級建築士
1974年東京都生まれ
1995年YMCAデザイン研究所卒業
1995年組織事務所、アトリエ設計事務所
2000〜2007年伊藤寛アトリエ
2007年南澤建築設計事務所 設立
2009年〜HAN環境・建築設計事務所
Works
の作品
Interview
インタビュー
冬暖かく、夏涼しく、快適で光熱費を極力抑えられる家にするために、断熱や気密について一定の規範を持つ家を設計したいと考えています。
今まで設計に携わってみて、これくらいは必要だと思うUA値やC値の基準を設定して設計を行っています(東京や神奈川などの6地域では、UA値0・46以下(HEAT20G2、断熱等級6)、
C値は、北海道の基準に基づいて0・5以下としています)。
断熱や気密に関して建築家や建築業界の皆さんがYouTubeなどでここ最近、盛んに発信するようになったので、一般の方々もすごく勉強をしています。
断熱や気密の数値だけではなく、環境的な話でも自然エネルギーを利用し、環境に負荷をかけずに暮らしたいとか、
冬暖かくて夏涼しい健康に配慮した体に優しい家に住みたいといった思いをベースに設計を依頼する人が増えたように思います。
このような要望に応えるために、ベースとしての性能値を検討すると共に、最初の提案の段階から温熱シミュレーションを行い、性能を可視化できる設計提案をしています。
私どもの事務所では、以前から住まいの温熱環境への取り組みをベースに設計を進めていました。
というのも、もともと生物や生態系などに興味を持っていたので、大学は獣医学部に入学したのですが、
ものづくりやエコロジカルな環境や建物を設計したいとの思いが強くなり、建築を学び直し、現在にいたっています。
私が設計の仕事を学び始めた当初は、温熱環境や自然エネルギーを活用するためのパッシブデザインについての情報は少なく、PC環境もまだまだでしたので、
環境に配慮した設計に取り組んでいる建築家もシミュレーションで検討するというよりは、概念重視のコンセプト的なものや、性能優先で、
デザインは配慮されていないものが多かった様に思います。
現在では、温熱性能に関する情報やシュミレーションソフトの充実により設計の段階で
計画している住まいについての性能をきちんと確認することが容易に出来る様な状況になって来ています。
吹き抜けやファンを使いエアコンの冷気や暖気を家全体に循環させる
Q:断熱・気密・換気計画をしっかりと施すメリットとは?
「深沢の家」「早宮の家」では、エアコンは、1階と2階のそれぞれに1台しか設置していません。
建て主は、当初「それだけで足りるの?」と半信半疑でしたが、実際、夏はエアコン1台を稼働させるだけで、家全体が涼しく快適に過ごせています。
2階リビングの高い位置に設置したエアコンは、主に冷房用でエアコンからの冷気が階段や吹き抜け、
もしくは壁内や天井内に設けた循環ファンで1階まで降りるように空気の流れを作っています。
1階の床下には、暖房用のエアコン(床下エアコン)を設置し、床スリットや吹き抜けや循環ファンで暖気が1階床を通過しつつ2階まで届くように計画しています。
床下エアコンは、暖気が床下を通ることにより、床暖房と同様の不快な温風のない輻射暖房として機能し快適です。
換気については、東京や神奈川などの6地域では、内外温度差が少ないので、第三種換気とする事が多いのですが、廻りの状況や建て主の希望より熱交換換気システムも取り入れています。
基本的には、冬は1階の床下エアコン、夏は2階もしくは、ロフトにエアコンを取り付け、
冷気や暖気の経路をしっかりと検討する方法で家全体の温度が均一で快適に暮らせる形を冷暖房計画の基本としています。
この手法では、イニシャルコストも光熱費も抑えられるのが快適性とともに大きなメリットとなっています。鉄
骨造の断熱リノベは内部結露しない対処を
Q:これまでに戸建てとかマンションの断熱リノベのご経験は?
戸建住宅やマンションの断熱リノベーションにも積極的に取り組む様にしています。
最近の事例では、鉄骨造戸建住宅の断熱リノベを行い、断熱材にはセルロースファイバーを選定してみました。
セルロースファイバー断熱材を壁内や天井に吹き込む工法です。
最初は、吹付発泡ウレタンで進めたほうが性能も確保しやすいかとも考えましたが、鉄骨造は熱による収縮が大きいので、気密性能の確保が難しく、
鉄骨部分に内部結露が生じる懸念があったので、調湿作用のあるセルロースファイバーを選定しました。
また、室内側には、可変透湿型の気密フィルムを室内側に施工して対処しています。
通常、一般的なリフォーム会社は、お客様からのオーダーがない限り、断熱や気密の改善提案はしないケースが多いようです。
冬の寒い時期に断熱や気密性能が確保された家の見学会を行うと、参加した方々が「この家は、なぜこんなに暖かいのか?」と驚かれます。
そのあと「我が家はすごく冬寒いので、ちょっと家を見てもらえませんか」と相談されて断熱リノベのご依頼を受けるケースがありました。
その際に別のリフォーム会社からの提案書を見せていただいたのですが、断熱、気密に関する改修提案はなく、
寒さに対する対応は、床暖房を入れて終わりとの提案でしたので非常に驚きました。
そのような小手先の対応ではなく、躯体性能を向上させる本質的な提案を心がけて行きたいと考えています。
30年後(2050年)の未来から振り返りの設計を考える大切さ
Q:地球温暖化やSDGsを見据えた家づくりについて
いままでは、私たちの未来というのは、現状の連続の先にあると考え方が普通でしたが、いよいよ気候変動などの問題が顕著な状況になってくると、
2050年は決して遠い未来ではありませんが、これからの変化についてきちんと見通しを立てて設計に取り入れて行かなければならないと痛感しています。
気候変動について知見を深めていくと「見返しの設計」ということを考え始めました。
「見返し」というのは、例えば2050年には、地球や地域がどのような環境になっているのか、想定しながら設計するということです。
建て主さんご家族が約30年後には何歳になっていて、どのような生活をしていくのかというのを想像して、今現在の設計を考える。
言い直すと2050年から逆算して今の設計を考えるということを、建築家として建て主さんにもきちんとお伝えしながらやらなければと思っています。
そう考えると断熱や気密というのは、家づくりに絶対不可欠な基本要素になっていきます。
もちろん未来を100パーセント予測することは不可能ですが、ある程度の予測は可能です。
そのような視点から30年後の気候や社会、エネルギー環境をベースとして家づくりを考える必要性があるということです。
言い換えると、「2050年の脱炭素社会になっても価値を維持できる住宅を今のうちから作りましょう」ということですね。
短期的にここ3年とか5年と先の家族構成のことだけを考えて家を建てるだけではなく、未来のことを考えて家を建てる。この視点がとても大切な気がしています。
これは、一例ですが、ある集合住宅のコンペに参加したとき、この地域が今後、どのように人口推移していくのか、
多摩川沿いでしたので、大型台風のリスクなども含めて、設計を考えました。
間取りや外観的なことを考える前に耐震強度や水害を考慮してRC造にしたほうが良いのか、浸水を考え床の設定をどうするかなど住居が建つ地域性や未来の変容を含めての提案をしました。
また、設計した住居が新しく建つことによってその地域の周辺環境を更に良くするような視点も大切だと思います。
家の中だけではなく、外環境も意識した設計にすることがこれからの建物には求められている気がします。
宇宙船に住むわけではないのですから、家の性能を前提にしながらも住んでいる人が暮らしを楽しめるような住まいであるということかな。
これからのライフスタイルを考えた「見返しの設計」という視点と、周辺環境を更に良くしていくという提案をこれからも考えながら続けていきたいと思っています。