村上あさひ
一級建築士事務所MUK
〒590-0138大阪府堺市南区鴨谷台3-3-5-406
072-298-7368
https://muk-live.com/
1975 大阪生まれ
1994 大阪市立大学生活科学部 生活環境学科へ入学
1998 卒業。Ms建築設計事務所へ。5年間、『建築とは』『木造住宅とは』『仕事とは』をみっちりと叩き込まれる。寝ても覚めても木造建築の日々を送る。
2004 一級建築士事務所MUK 地元である堺市・泉北ニュータウンを拠点に、地域に根差した建築家を目指して活動。
2015 新住協入会。『木の家・性能・デザイン』この3本柱を軸に、それらのちょうどよいバランスを追及していこうと決意を新たにする。
2019 建築知識ビルダーズ主催 第5回日本エコハウス大賞『優秀賞』受賞。(2018年竣工 S邸)
2020 開業時から続いた自宅ワーカーを卒業し、築50年の古民家を改装した『ゆっくりばこ』に仕事の場を移す。設計時に提案する素材や空間、広さの感覚、そしてなにより、数値だけではわからない高断熱の木の家の心地よさを体感いただける場所となりました。気軽に立ち寄っていただければと思います。
2022 第6回日本エコハウス大賞『奨励賞』受賞(2020年竣工 ゆっくりばこ)
Works
の作品
Interview
インタビュー
Q:家づくりのコンセプトや考え方で大切にしていることを教えてください。
地元である泉北ニュータウンを拠点に、長く住み継いでいかれる『木の家』を増やしたいとの思いで活動を続ける中、
新住協の高断熱・高気密の技術との出会いがあり、現在に至ります。
温熱計算ソフトQPEXを使い、『性能』を冷暖房費やエネルギー削減量で見える化し、その地域に〝ちょうどよい〞性能の家をつくるための計算を重視しています。
コストをかけるほど性能を上げることは可能ですが、やみくもに上げても仕方ありません。
その地域にちょうどよい塩梅をご提案するよう心掛けています。
最終的にエアコン1台の稼働で24時間冷暖房がかなう性能を目指し、そのために必要な光熱費の試算もご提示します。
暖房用の床下エアコンを多くの物件で採用し、住まわれてからの快適さには好評をいただいています。
また、施工を担当する工務店(西紋建匠株式会社)が設計の初期段階から打合せに同席し、常に施工者の視点で計画をチェック、建築コストを把握しながら設計を進めるようにしています。この点は設計事務所としての強みになっていると思っています。
竣工までを住まい手・設計・施工のチームで歩んでいく。そんな家づくりを目指しています。
断熱は暮らしを豊かにしてくれる技術。暮らしぶりを伺い、住まい手と一緒につくる
Q:住宅づくりではヒアリングを大切にしているそうですが、どのようなことを意識していますか?
夏涼しく冬暖かい家。性能を担保することでプランニングの幅も広がります。
そこをベースに、現在の暮らしぶりを伺い、新しい家に望むことや、どのような趣味嗜好をお持ちか等々、設計に取り掛かる前段階でのヒアリングの時間を大切にしています。
例えば、洗濯物をどこに干すか。洗って干して畳んで収納するまでの動線をどうするか。
日常的に洗濯物を畳んで片付けるまで手が回らないのであれば、洗濯物が片付いていなくても気にならない家事動線をご提案することもできますし、
すべて乾燥機で乾かされる方も増えていて、クローゼットとランドリールームを一つにまとめるのも一手です。
収納に関しても、お手持ちのモノの量をおおまかに把握し、収納場所もあわせて計画します。
大工工事で収納までつくりこみ、新たな収納家具を買い足すことなく生活をスタートできるのが理想です。
家全体のテイストも揃いますし、完成時より、入居して生活感が出てからのほうがしっくりくる家がよいと思っています。
住まい手の暮らしぶりを伺い、家にあわせるのではなく、暮らしに寄り添うような計画を心掛けています。
だからこそ、建築家に対して「想いを伝えやすい」と思ってもらえることが、家づくりのパートナーとして重要なことと思います。
家族の間では改めて話さないようなことも、第三者の設計者を介してコミュニケーションをとる中での気づきもあります。
そうしてキャッチボールしながら計画を一緒につくりあげていく。そのプロセスに家づくりの魅力を感じます。
リノベか、新築か
Q:活動エリアでは断熱リノベーションもよく引き受けるのですか?
私が住んでいる堺市の泉北ニュータウンという地域は、まちびらきから50年ほど経つ街でリノベーションの需要は非常に多いんです。
地元に戻り、独立してから家づくりに関わる中で感じたのは、やはりリノベーションで断熱を強化できたり、
不便なまま我慢して暮らしてきたことが改善されたときの感動はひとしおだなということです。
リノベーションの相談に来られる方は、住居が寒くて困っている人が本当に多くいます。
この時、新築であればイチから建てるため、最初から一定レベルの性能を組み込みやすいのですが、
40年前、50年前の住宅リノベーションの場合、新築レベルまでもっていくのは、難しいことが多いのです。
それでも、困りごとを一つずつ解決し、快適な住まいに生まれ変わったときの感動ややりがいは格別です。
実際、この地域は延べ床50坪近い大きな戸建てが多いのですが、住んでいる家族の構成は、子どもが独立して、
2階部分はほぼ使っていない状態だったり、ご夫婦やひとり住まいになっているケースも多く、フルリノベーションするとすごくお金がかかってきます。
そうであれば、小さくても性能のいい家を建てたほうが、資産価値として見たときにもいいのではないかと考えます。
大きな家の管理はお金も手間もかかるし、後々のメンテナンスも負担になってくるため、
その点を踏まえてリノベーションするほうがいいか、あるいは新築で小さく建て直すほうがいいのか。
長い目で見たときに、住まい手にとってどちらがベターなのか選択できるように提示しています。
特にコスト面を比較できるよう見せながらお話するのですが、近年は小さい家のメリットをお話しすると、最終的に新築を選ばれるケースも増えています。
30坪前後の小さな家はエアコン1台で家全体を冷暖房するのにも有利になります。
家づくりの優先順位を決める
Q:これから家づくりをする方に向けてアドバイスをお願いします。
私が家づくりの打ち合せでよく言うのが、「優先順位を決めていきましょう」という言葉です。
いまはいろいろな情報が溢れているので、あれもこれもと夢が大きく広がってしまいがちですが、その実現にはどうしても予算が関わってきます。
なので、絶対に叶えたいことは何なのか、優先順位が高い・低いという基準をある程度設けておくことで、何を採用していくのかを決める目安にもなるのです。
この目安を決めずに設計を進めてしまうと、どれも諦められないのに予算が足りず、広げ過ぎた風呂敷を畳まないといけない......ということにもなりかねません。
最近では断熱・気密性能の重要性を理解された上でご依頼くださる方もずいぶん増えてきました。
私たちとしては、高断熱の住まいがいかに快適で、住んでからの満足度に大いに関係してくるかということ。
また、家づくりのコストには限りがある中、後からでは追加や変更の難しい『性能』(構造と温熱環境)の部分にまずはコストをかけることをアドバイスとしてお伝えしています。
実は私の事務所が入る『ゆっくりばこ』も、築50年の古民家をリノベーションした高断熱の建物です。
訪れた人は、「古い造りなのに暖かいですね」と驚かれます。
築年数が経った、一般的には寒いであろう住宅でも、建築の技術で快適に過ごすことができます。
その体感を当事務所に来ていただき感じてもらえたらと思います。