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Architects

古市久美子

古市久美子建築設計事務所

〒2310014横浜市中区常盤町2-10トキワビル3階207
※お問い合わせはメールもしくはコンタクトフォームのみ
https://www.furuichikumiko.com/

Works

の作品

Interview

インタビュー

断熱も含め、30年先を見据えた家づくりを

Q:施主さんへのプレゼンの流れを教えてください。

通常は、最初に施主さんに条件面や好みなどをヒアリングした後、約1か月後に設計のデザイン案を提案します。
その際に熱環境のシミュレーションも一緒に出しています。意匠のデザインにも共通するのですが、家づくりは言葉にできない部分がたくさんあります。

例えば、台所をどのようにしたいか、という話でも、言葉にできない部分がたくさんあって、こちらが提案するために持参した写真を見せながら「こんな感じですか?」と聞くと、
「こういうことです! こんな感じのデザインがいいと思ってました」ということがたくさんあります。
断熱の性能に関しても同じで、施主さんの意識に上がってなくて「別に寒いとも暑いとも思っていないし、必要ならエアコンをつければいい」と当たり前に思ってらっしゃる方に、
断熱を考慮した暮らし方を提示すると、「そのような快適な暮らし方ができるんだ」と新たに気づくことがあります。

性能を高めると建築費が増えますが、ランニングコストが大きく削減されるので、通常は10年くらいで元が取れます。
経済的なメリットを判断していただくために、30年間のランニングコストを具体的に説明するようにしています。
私たち建築家は、無意識のレベルにある欲求というものを、いかにデザインの中の落とし込めるかが大切だと思っています。
長い目で30年後くらいのことまでは考えてご提案することです。
もちろん、断熱・気密性能だけじゃなくてパッシブデザインも必要です。
高性能ということだけだと、足りないんですよね。太陽の光の熱は本当に大きなエネルギーで、地球はそれで動いてます。
それらを暮らしに取り入れるのは当然あるべき姿だと思います。


元の家の良さを生かしながら断熱リフォームを

Q:ご自身で手掛けた断熱の例をお話しいただけますか?

断熱・気密については、ここ10年くらいの断熱の技術の進歩や施工業者などの意識の変化には目を見張るものがあります。
10年くらい会ってない工務店の社長に会うと、以前は断熱に関して話していなかったのに、
今では当たり前のように断熱や気密性のことを家づくりに取り入れている、ということが増えました。
大工さんでも断熱に関して勉強されている方は、現場でも話が早いですね。
ひと昔前なら断熱に関してここまでやらなくてもよいのでは? という現場の声も多かったのですが、今では当たり前のことになってきています。

断熱リフォームに関して一例をお話しします。築50年の家を断熱して耐震等級3まで補強した、すごく意義のある仕事でした。
断熱に関しては、床裏に発泡ウレタンを吹き付けて、床断熱を行いました。
最初は基礎を補強するために内装材はあまりいじらずに、床のカリン材を残す形で進めていましたが、
断熱を施工するためにスリットを入れたり、外壁に沿って90センチくらいの穴を開けて、基礎のまわりを補強する作業を行いました。

もともとすごく感じのいい家だったので、お客様も気に入っていたということもあり、なるべく元の家の良さは生かしながら、台所のシンクは新しくしたり、
窓を全部入れ替えて、和室を吹き抜けにしてご主人の書斎にして、古民家から持ってきた建具を入れ直してリフォームしました。
最近では、エイジングした素材が人気でもあるので、あえてノコギリで傷をつけたフローリング材を取り入れました。
部屋によっては、複合フローリングという一般的な住宅で使われているベニヤの上に薄い3ミリぐらいの板が貼ってある材料だったのですが、
それを無垢のエイジング加工をしたものを入れました。

また、元の家は1階のみ漆喰を塗っていましたが、リフォームの際は1階も2階も漆喰でもう一度塗り直しています。
元あったデザインで素敵な部分を引き伸ばす工夫をしています。


水風呂のように寒かった部屋が暖かく改善

Q:断熱リフォームしてどのように変わりましたか?

断熱の効果に関しては、シミュレーションソフトを使って1年間の室温変動やランニングコストのシミュレーションを行い、
例えば光熱費は年間で7~8万円は下がるということをお客さんには数字として伝えました。
もちろんお金の問題だけではなく、実はこの家は従前壁のグラスウールがへたっていて、内部結露が起こっていました。

もともと建築の問題があったため、冬は水風呂に入っているかのように家の中が寒かったのです。
そのため冬になるとエアコン、ガスヒーター、石油ストーブをつけないと暖かくならないので、その結果、内部結露を起こしてしまいました。
それをしっかり断熱リフォームすることで、光熱費が当然下がっただけでなく、水風呂のような状態もなくなりました。
Ua値としては3.9にまで改善しました。もちろんHEAT20のG2とか、そういうレベルの家だとUa値は0.4ほどにはなります。
それに比べたら断熱性能は劣りますが、もとの家の状態と比べるとだいぶ良くなりました。
それは実際に住んでいる人にとっては、体感的にも全然違うと思います。
冬でも部屋の中で暖かく暮らせて、 ゆったり庭を眺めながら過ごせるのですから、とても快適です。

実際に、断熱に関しては新築で施工するよりも、リフォームの方が現場ではかなり大変な作業になります。
でも断熱材にセルロースファーバーを使ったことが大きかったですね。仮にセルロースではない断熱材を使っていたら、Ua値が上がらなかったかもしれません。

もともとの家が鎌倉の高級住宅地にある家だったこともあり、家全体にとても良い素材が使われていました。
次の世代にも渡せるような家、というのが元の家主さんにあったので、引き継いだ施主さんも良いものは残したいという思いがありました。
通常ですと、外壁を全部壊してスケルトンにしてリノベーションを行います。
この家の場合は、断熱・気密を取りながら、中も外も残すというのが難題ではありました。
でも、「できるだけ元の家の良さを残したい」という施主さんの想いを優先してリフォームを進めました。
そのため、先ほどもお話ししましたが、断熱材は吹き込むしかなかったので素材はセルロースかグラスウールの吹込みと決めていました。

ただグラスウールの調湿能力はあまり期待できなかったので、セルロースファイバーを採用しました。
今回は完璧に剥がすリフォームではなかったので、中が見えていない部分があったんですね。
セルロースファイバーは断熱だけではなく、調湿能力により快適性が高まることを期待しての採用だったのですが、結果的には良かったと思っています。